日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-202
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Δ9-Tetrahydrocannabinolによるfatty acid 2-hydroxylase (FA2H)の発現誘導:PPARαとPPARβ/δの相互作用に注目した解析
*平尾 雅代竹田 修三杉原 成美瀧口 益史大原 正裕
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抄録

【目的】我々はこれまでに、薬物型大麻草主成分であるΔ9-tetrahydrocannabinol (THC)がヒト乳がんMDA-MB-231細胞中のfatty acid 2-hydroxylase (FA2H)の発現を濃度依存的に誘導することを見出しており、この機構にperoxisome proliferator-activated receptor α (PPARα) の発現増加が関与することを明らかにしている(J. Toxicol. Sci., 38: 395, 2013; Toxicology, 326: 18, 2014; Arch. Biochem. Biophys., 662: 219, 2019)。しかしながら、MDA-MB-231細胞にはPPARαに加えてPPARαの転写活性を抑制しうるPPARβ/δが同時に発現している。そのため、MDA-MB-231細胞に発現するPPARαがPPARβ/δにより抑制されるのであれば、「THCはどのようにしてFA2Hの発現を誘導するのか?」という疑問が生じる。本研究では、MDA-MB-231細胞におけるTHCによるFA2Hの発現誘導機構を明らかにすることを目的とした。

【方法】MDA-MB-231細胞を用い、THCによる影響を解析した。各種遺伝子の発現はリアルタイムPCRを用いて解析した。各PPARサブタイプの転写活性はPPAR応答配列の活性化を指標としたルシフェラーゼアッセイを用いて解析した。

【結果および考察】THCはMDA-MB-231細胞中のFA2HおよびPPARαの発現をその濃度依存的に誘導した。PPARαおよびPPARβ/δを共発現させると、PPARαによる転写が導入したPPARβ/δのプラスミド量に依存して抑制された。PPARαとPPARβ/δを等量共発現させたMDA-MB-231細胞ではFA2Hの発現は変化しなかったが、本系にTHCを加えるとFA2Hの発現量が増加した。また、THCはPPARαの活性には影響を与えなかったが、PPARβ/δを抑制した。これらのことから、THCによるFA2Hの発現誘導には、直接的なPPARαの転写活性化ではなく、THCがPPARβ/δによるPPARαの転写抑制を解除することが示唆された。この可能性を検証(mimic)するため、PPARαを高発現させたMDA-MB-231細胞をPPARβ/δのアンタゴニストであるGSK0660で処理し、FA2Hの発現に与える影響を解析した。その結果、PPARαの高発現自体でFA2Hの発現が増加し、FA2Hの発現がGSK0660の共存下ではさらに増加した。一方、PPARαに制御される他の遺伝子群ではこのような現象は見られなかった。以上より、MDA-MB-231細胞におけるTHCによるFA2Hの発現誘導には、i) PPARαの発現誘導およびii) PPARβ/δによるPPARαの転写抑制の解除の両方が関与することが明らかになった。また、これら機構はFA2Hの発現調節に特異的である可能性が示唆された。

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