結核
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新たな結核対策の技術と展望
第79回総会特別講演
森 亨
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2004 年 79 巻 10 号 p. 587-604

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抄録

結核予防法は1951年に施行されたが, その間結核の疫学的状況と対策を巡る環境 (技術革新や諸制度の普及・向上) は大きく変わった。加えてEBM, 人権, 地方分権といった対策立案の基本理念への対応も新たな課題となっている。これに応えるための新たな結核対策の方向性は2002年3月に出された厚生科学審議会結核部会の「提言」に示されたが, これを受けて結核予防法の改正が行われ, 2005年4月の実施に向けて政省令等の整備が進められている。本講演では新たな結核対策の内容とその背景を検討し, くわえて新しい対策の技術開発の展望について議論を加えた。
1. 患者発見: 定期健康診断については従来の無差別健診を廃止し, 特定対象を限定してふるい分けを行うこととした (選択的健診) 。基本的には65歳以上の高齢者を中心に行われ, これに特定職業 (医療職員など) を対象とする事業所での健診, 市町村長の裁量での社会的ハイリスク者 (ホームレスやスラム地域, 零細企業など) への健診が行われるようになった。後者については実効性あるものにするための市町村の努力が決定的な意味を持つ。定期外健診は患者接触者に限定され, 従来なかった強制力をもった健診として強化される。これを支援する技術として地域集団で行う結核菌RFLP分析 (DNA指紋法) と, 感染診断のための免疫学的診断 (特異抗原に対する全血IFN-γ 応答測定法) が有力であろう。また患者発見の約8割を果たしている臨床の場での患者発見については, 結核菌検査の精度管理, とくに外部精度管理が重要な課題である。
2. 化学予防: 今回の予防法改定には含まれていないが, 中高齢者が発生の大半を占めている日本の対策上は, 一次予防の重大な課題として今後取り組まれなければならない。これについても感染診断の新技術は重要な技術的支えとなろう。薬剤方式にも今後技術革新が望まれる。
3. 予防接種: 既に再接種の廃止 (小中学校入学時のBCG接種の廃止) は一部前倒しで実施されているが, 唯一の機会として残された乳幼児期の接種については先行するツベルクリン反応検査を廃止した「直接接種」方式の導入が定められた。それを安全かつ効果的に実施するために接種対象年齢は1歳に達するまでと政令で定められた。ただ1歳までに接種率が現在よりも下がらないように実施するためには市町村の大きな努力が必要と考えられる。また少数とはいえ必然的に発生する「既接種者への接種」の最大限の回避と接種後の反応 (コッホ現象) に対する対応は行政上無視できない課題である。
4. 治療: 今回の改定では, 保健所と主治医が患者の治療完遂のために提携して具体的な努力をすべきこと (日本型DOTSの推進) が明確にされている。また近未来にはより強い抗結核薬の開発も夢でなくなっている。その一方で日本の結核医療には, より質の高い標準治療の適用という医療側への課題, また未承認抗結核薬の早期採用や非結核性抗酸菌症への適正な対応といった行政の緊急課題が残されていることを忘れてはならない。
5. 都道府県結核予防計画: 地域格差 (疫学格差や様々な結核対策資源の格差) に対応した対策が行われるように, 新結核予防法では都道府県に独自の対策計画を立案することを求めている。
あらたな結核予防法が効果をもたらすためには, 強い政治的関与と技術革新が必要であり, そのために結核病学会は国民とともに世界規模の「ストップ結核運動」に積極的に参加する必要がある。

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© 日本結核病学会
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