日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
嚥下造影検査による‘ヒステリー性’嚥下障害と神経筋疾患の嚥下障害の鑑別
山本 敏之
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2009 年 13 巻 3 号 p. 165-175

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抄録

【目的】嚥下造影検査(VF)から,‘ヒステリー性’嚥下障害(HSD)患者と神経筋疾患(NMD)患者を鑑別することを目的とした.

【対象と方法】ヒステリー球とは異なり,口腔の食物を咽頭に送り込むことに困難を訴え,神経学的検査,画像検査などで器質的な異常を認めない患者16 人(34.4±10.8 歳)をHSD 群とした.認知症,高次脳機能障害,統合失調症,うつ病,中枢性摂食異常症は否定した.対照群として,健常対照(NC)群,筋萎縮性側索硬化症(ALS)群,筋疾患(MD)群,パーキンソン病(PD)群をそれぞれ30 人とした.液体バリウム(Ba)(液体)とBa 加コンビーフ(固形物)で嚥下造影検査(VF)を行った.HSD 群と対照群のVF所見を比較した.

【結果】閉口安静時の側面像から,咽頭前後長はHSD 群とNC 群とで有意差がなく,ALS 群,MD 群はより長かった.HSD 群の液体の嚥下動態はNC 群と類似し,誤嚥を認めず,嚥下後の咽頭残留の頻度が少ないことを特徴とした.HSD 患者5 人は,口腔から咽頭への液体の送り込みを何度も中断し,少量の液体を嚥下した後,嚥下運動開始前の舌の形態に戻ることを繰り返した.これは対照群にはみられない所見であった.固形物のVF では,HSD 患者3 人が咀嚼運動後,嚥下することができず,検査を中止した.HSD 群の固形物の嚥下動態は,NC 群ともNMD 群とも類似しなかった.HSD 患者の固形物の嚥下動態は,咀嚼中に第二期輸送が惹起されず,口腔で嚥下反射が惹起されることを特徴とした.

【結論】神経筋疾患との鑑別に有用なHSDのVF所見は,咽頭前後長が延長していないこと,液体を誤嚥しないこと,固形物の咀嚼と第二期輸送が分離していること,嚥下後の食物の咽頭残留がないことであった.HSD 患者は液体の飲み込みを何度も中断する所見を認めることがあり,「間歇的な送り込みの停止」と呼ぶことを提唱した.

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© 2009 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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