システム農学
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研究論文
サヘル地域の村落における「危機の年」の認識と対処行動
-ニジェール南部のハウサおよびフルベの村落を事例に-
小村 陽平田中 樹佐々木 夕子真常 仁志
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2013 年 29 巻 2 号 p. 41-50

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抄録

半乾燥地域である西アフリカ・サヘル地域の人々の主な生業は農耕と牧畜であるが、不規則な降雨や農作物への病害虫被害などにさらされ、しばしば干ばつや飢餓に見舞われる。本研究は、このような問題を抱えるサヘル地域の村落に暮らす2 つの民族(農耕を主な生業とするハウサと牧畜を主な生業とするフルベ)の生業を捉え、それぞれが認識した「危機の年」とその対処行動、村落の立地条件や民族による「危機の年」の認識と対処行動の違いを明らかにすることを目的とした。調査地はニジェール南部のマラディ州テッサウア県テッサウア・コミューンに位置するハウサの2 村落とフルベの1 村落である。調査は各村25 世帯ずつに対し、主に質問票による聞き取りを行った。聞き取りの内容は、ハウサとフルベが認識した「危機の年」とその対処行動、世帯の基本情報などである。調査の結果、主要な「危機の年」には現地呼称が付され、その経験は口承により記憶されていたことがわかった。ハウサの村落間においても「危機の年」の認識は異なり、その認識の違いは村落の立地条件、漁労や野菜栽培のような副生業による「危機」への対処の仕方の違いを反映していることが示唆された。ハウサとフルベという異なる民族間において認識された「危機の年」は共通し、それはフルベの「危機の年」の判断基準が家畜の損失に加えハウサと同じく収穫の多寡となっていたからであり、「危機の年」の認識における民族間比較を通じて、フルベの生業が定住による家畜の飼養と農耕というハウサに類似した形態にあることを捉えることができた。そして、「危機の年」の対処行動においては、各対処行動の内容を捉え、「危機の年」による差異、地域的差異、民族的差異により取られた対処行動が異なることがわかった。また、対処行動にはいくつかの優先順位があることがわかり、「危機の年」には各世帯の困窮度に合わせた対処行動が取られることが示唆された。

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