2018 年 2018 巻 2 号 p. 20182006
社会基盤構造物の多くを構成している鉄筋コンクリートは, 引張に弱いコンクリートを引張に強い鉄筋で補強した構造である. 材料の挙動に着目すると, コンクリートはひび割れが発生して軟化挙動を示す脆性材料であるのに対して, 鉄筋は弾性限界後に塑性硬化を示す延性材料である. 鉄筋コンクリートは, まったくタイプの異なる材料を組み合わせた構造 (材料) であるため, その破壊挙動は非常に複雑で非線形なものになる.
既往の研究において, 著者らは, 有限ひずみを用いて, コンクリートの破壊力学に基づく損傷モデルを定式化し, これをコンクリートのひび割れ進展挙動のモデル化に応用することで, 幾何学的非線形性を考慮した鉄筋コンクリートの有限要素解析に適用可能であることを示した. しかし, 有限ひずみを用いて鉄筋の塑性変形まではモデル化しておらず, コンクリートと鉄筋の両方の非線形力学挙動を再現するには至っていない. また, 鉄筋の塑性変形をモデル化していないため, 鉄筋コンクリートの破壊挙動に対して, 実験結果との定量的な比較も行えておらず, 実験結果の再現性についても検討する必要がある.
そこで本論文では, コンクリートのひび割れ進展挙動に有限ひずみ損傷モデル, 鉄筋の塑性変形に有限ひずみ塑性モデルを適用することで, 幾何学的非線形性を考慮した3次元鉄筋コンクリートの破壊シミュレーションが行える有限要素解析手法を開発する. そして, RCはりの実験結果と解析結果を比較することにより, 提案手法による破壊シミュレーションの妥当性を検証する.
第2章では, ヘンキー超弾性モデルをベースに, 鉄筋の塑性変形のモデル化に適用するvon-Mises塑性モデルとコンクリートのひび割れ進展挙動のモデル化に適用する修正von-Mises損傷モデルの定式化を示す. 本論文における一つ目の新規性は, ヘンキー超弾性モデルをベースに, 塑性モデルと損傷モデルを統一的に記述する定式化である. 第3章では, 提案手法の基礎的検討として, せん断補強筋の異なるRCはりの4点曲げ試験を対象に, 実験結果と解析結果を比較することで, 鉄筋コンクリートの破壊挙動を精度よく再現できることを示す. 本論文における二つ目の新規性は, 有限ひずみ材料モデルを用いて, 鉄筋コンクリートの実験結果を定量的に再現することである. 第4章では, 本論文の総括を行い, 今後の課題と予定について述べる.